国民戦線 (FN) 潜入ルポの波紋

1990年代以降、国民戦線のフランスの政界における勢力拡大はまことに著しい。そこに至った原因のひとつは、彼等の巧みなメディア戦略によって、その主張が他の小政党とは比較にならないくらいマスメディアの中で取り上げられたことにある、という見方を前回紹介した。ただ、メディアへの露出が多かったとは言っても、それはジャン=マリー・ルペン党首という、いわばテレビ向きのパーソナリティによるところが大きかった。国民戦線という政党の内部はどうなっているのか、そこではどんな議論が交わされているのか、支持者たちはどのような人たちなのかといった問題は謎のままで、FNという政治勢力はフランスの政治と社会において、長い間、いわばブラックボックスだったのである。

そうした政党の内部に光をあてたのが、フリーのジャーナリスト、クレア・チェカリニ氏(Claire Checcaglini)の著わした『国民戦線へようこそ』(2012)* である。チェカリニは国民戦線の党首がジャン=マリー・ルペンから娘のマリーヌ・ルペンに交代する時期をとらえ、自らの身分を隠して国民戦線に入党した。そして入党後、そこで直接見聞きした幹部や同僚の言動を、この本にまとめた。
* Claire Checcaglini – Bienvenue au Front !, Jacob Duvernet, 2012. ISBN-10: 2847243844

党に加わるにあたって、彼女は祖母の姓と名前を借用した他、髪を染め直すなど、外見もそれまでとは大きく変えた。そして、入党にあたっての面接の際、なぜ党員になりたいのかと質問された彼女は、用意してきた次のような答を返したという。

「これまでも自分はFNに投票してきました。しかし正直言って、ジャン=・マリー・ルペンを支持することには抵抗がありました。しかしマリーヌが党首になった今、すべてが変わったと思います。自分はもっとこの党に関わっていきたいし、選挙戦にも参加していきたい」

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入党後、35歳のチェカリニはパリ近郊のオ・ド・セーヌ県で活発な行動を開始した。それは、党の幹部から次の国民議会選挙に立候補しないかと誘われるほどの食い込みだった。

党に入った彼女はすぐに、マリーヌ・ルペン新党首の下で掲げられている dédiabolisation という戦略は、見せかけのものにすぎないことを理解した。dédiabolisation とは非悪魔化とも穏健化とも呼ばれることがあるが、要は社会から悪魔視される存在であったことから脱却し、FN Light と呼ばれる新しい性格を党内外に定着させることをねらいとしたものとされる。しかし、本当に「穏健化」は進んでいるのか。『国民戦線へようこそ』の中には、新党首が就任してまもないこの時期、党内で党員たちが交わしていた生々しいやりとりが記録されている。

例えば国民戦線の内部では、フランスとアラブの産油国との間で密約が結ばれている、と信じている人が少なくない、と彼女は言う。中東地域からおびただしい移民の流入してくるのは、産油国とフランスの間に、「産油国はフランスに石油を安く売る。その見返りとして我々の国の人間をヨーロッパに定住させる」という約束があるからだ、というのである。

1973年、フランスでは人工妊娠中絶が合法化された。このことに関連してFNの支持者たちは、「政府が移民の受け入れを認めているのは、中絶された人間の数を補うためだ」と信じているのだともいう。

また、著者が見た党の内部文書には、今後フランスがたどる道について、次のような選択肢が記されていた。第一の道は、フランスがイスラム法(Charia)を採用し、イスラム共和国になる道。そして第二の道は、国内で内戦が起きることを覚悟の上で、イスラム教徒を彼等の故国に送り返すという道である。この第二の道をとれば、フランスは内戦になるだろう。平和主義者や知識人、メディア、芸術家、宗教家たちはイスラム教徒を擁護するに違いない。しかし、イスラムの人々は元々の「真の」フランス人に比べ、人口増のピッチが速い。フランスを再生させ、イスラム共和国にしないためには、イスラムをこの国から根絶するほかない。自分たちにとっては戦うか消え去るしかないのだ・・・。

こうした言辞に接したチェカリニは、この政党と支持者には論理的は思考や分析といったものが欠けている、と断じるのである。

また、反ユダヤの立場に立つこの党の内部にはユダヤ人の家系の者も少なくない、という指摘も興味深い。彼等の先祖は第二次大戦中、強制収容所に移送された経験を持っているが、そうした過去にも関わらず、彼等は極右思想を信奉している。

彼女は、あるデモ参加者のこんな声も記録している。
「以前、十分はUMP(国民運動連合=現・共和党)に属していた。しかし、その支持者たちは他人を蔑み、冷たかった。しかし、この党は違っている。ここでは感じがいい人ばかりだ」

身分を隠しての取材という方法を取ったことについて、チェカリニ氏は次のように語っている。
「以前から、国民戦線の幹部がジャーナリストに対して発している言葉は、作りものにすぎないと感じていた。FNと取材者との間には、『自分はジャーナリストである』と明かした途端、間違いなく存在する壁があって、それを取り除かなければならないと考えていた。自分の身分を隠した取材であれば、FNでは誰が組織を動かしているのか、党内でどのようなメッセージが送られているのか、どんな表現が使われているのかといったことを知ることができると思ったのだ」

様々な現場に立ち会い、それを記録したチェカリニが、取材の最後に自分は偽装して潜入していたことを明らかにした時、党員たちの反応は意外とも思えるくらい冷静なものだったという。もちろん「卑劣だ」と怒りをあらわにする者もいたが、多くの党員はクールな反応を示した。「自分たちには隠すことは何もない。それなのにどうしてそのような方法を採ったのか、理解できない」と言う人さえいた。

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チェカリニ氏の本の出版に対しては、当然国民戦線からの反発が起きた。党は、計略(ruse)によって取材を行ったとして、著者を詐欺罪で告訴したのである。

しかしオ・ド・セーヌ県の県庁所在地、ナンテールの裁判所は2014年の末、それに対し「免訴」、すなわち氏の行為は詐欺罪を構成しないとの判断を下した。その根拠は、「党は、著者が収集した意見や言葉の『所有者』ではなく、それらの意見は党の『財産』ではない」というものだった。要は、取材された意見は党員個人の発言であって、党という組織に属するものではないということである。さらに裁判所は、個々の意見はそれが捏造されたものでない限り、党に被害をもたらしたと判断することはできない、とも判示した。

また国民戦線側の、「潜入という方法によって得た情報によって、著者は本の出版を通して不正な利益を手にしている」という主張に対しても、「政党の思想、イデオロギー、戦略に関する公的な議論の展開に貢献することは、表現の自由に含まれる事柄である」と強調し、党側の主張を退けた。

この判決に対し、チェカリニ氏の弁護士は「すばらしい判決だ。国民戦線の主張を完全に論破するものだ。FNは民主的であるように装っているだけで、政党としての透明性を完全に拒否している」と述べている。一方、判決に対する国民戦線の側からの反発は、もちろん消えてはいない。

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